Schmidtサイクルの導出

Schmidtサイクルはスターリングエンジンの基本的な計算モデルとして広く知られているが、その導出過程を説明した日本語のリソースがあまり無いように感じている。そこで1984年刊行の「Stirling Cycle Engine Analysis」よりUrieliの手法を翻訳して紹介する。

背景

スターリングエンジンの概念における見かけ上の単純さと、その数学的解析の取り扱い憎さは矛盾している。理想化されたエンジンのモデルであっても、それを単純な閉じた式の表現で記述することは難しく、このことは、現在でも存在する一般に広がった懐疑論及び理解不足の理由の一つである。

我々は第2章で理想等温モデルを記述する基本的な方程式のセット(表2.1)を得た。Polytechnic institute のドイツ人 Gustav Schmidt は、1871年、これらの方程式について、作動空間が正弦的容積変化を行う特殊なケースにおける閉形式の解を導出する解析を発表した。(Schmidt 1871) この解析は古典的なスターリングサイクルの解析として現在でも用いられている。それは、図A.1.1に示される、非常に成功した Lehmann エンジンを記述するため導出された。論文にはエンジンの詳細な記述が含まれ、エンジンへの明晰な洞察および評価が示されている。図A.1.1から、非常に長い水平シリンダーABCが用いられているのを見てとれ、その中で、同心のディスプレーサLとパワーピストンDが、やや複雑な駆動機構に従って往復する。フルサイズの完全なLehmannエンジンはミュンヘンのドイツ博物館に永久展示されており、近年 Kolin(1972)による、エンジンの動作の明白かつモダンな解説が提供されている。

駆動機構は正弦運動を生み出さない。Schmidt は、'想像上の無限長のスラストロッドを用い、パワーピストンとディスプレーサの純粋な動作(正弦運動)を達成する'等価な機構を誘導した。

Lehmannエンジンのピストンシールは、自転車のポンプと同様に巧妙に構成され、一定の圧力の制限の下運用される。パワーピストンは内側に折り返された皮のスリーブを用いることで密閉される。エンジン内部の空気が外部の大気圧より高い圧力を持ちさえすれば、このスリーブは外部への空気の流出を効果的に防止する。しかしながら、内部の圧力が通常の大気圧以下に低下するやいなや外部の空気がエンジン内部に流入することを許した。

'Lehmannエンジンの配置は、パワーピストンが常に冷たい空気とのみ接触しているという優越性を持つ。それによって内側に折り返した皮のスリーブが燃えてしまうことを防止している。'

Schmidtは高圧でのサイクルの作動に優越性があること、その更なる状態を痛切に感じていた。'疑いなく未来への約束を持つただ一つのシステムであって、なぜなら、高圧のエンジンが低温を用い、それにより耐久性のある機械が製作されるからだ。'

興味深いことは、初期のEricssonエンジンにおける再生器の使用についての記述があるにも関わらず、論文を通して再生器の重要性への言及が為されていないことである。図A.1.1において、我々は、3番目のシリンダーが炉に囲まれ、残りのシリンダーがウォータージャケットに囲まれていることに気付く。'ディスプレーサは、それ自身とシリンダーA、間に入る部品B及び加熱容器Cの間に、環状の隙間の断面が、空気の通行における最小限の抵抗を許すのに十分の広さ、かつ加熱と冷却が可能な限り速やかに達成されるための薄い空気層を形成するのに十分な狭さの、丁度よい大きさの空間を残している。Lehmann エンジンに再生器が備えられていなのは明白である。今では、周期的定常状態の下でのサイクルを通じて再生器へ伝達される正味の熱量は0でありことから、Schmidt が再生器の重要性を認識することが出来なかったと考えられる。彼はZeunerによる教科書を'完全でシンプルかつ明白な理論'を持つ空気エンジンの教科書として参照しているが、同じ教科書でZeunerは空気エンジンでの再生器の使用を非難している。(Finkelstein 1959)

解析

Schmidt によって取られた解析のアプローチは、以下に再掲する式(2.5)によって与えられる圧力の関係を導出するまで、2章で用いられた等温解析に殆ど密接に従う。:

{\displaystyle p=MR{\left( \frac{V_c}{T_k}+\frac{V_k}{T_k}+\frac{V_r\mathrm{ln}\left( \frac{T_h}{T_k}\right) }{\left(T_h-T_k\right)}+\frac{V_h}{T_h}+\frac{V_e}{T_h}\right) }^{-1}\tag{A.1.1} }

正弦的容積変化は以下に示すように、式(2.15)と(2.16)で得られた。

{\displaystyle \begin{align} V_c=V_{clc}+V_{swc}\left(1+\mathrm{cos}\theta)\right/2\tag{A.1.2}\\ V_e=V_{cle}+V_{swe}\left\{1+\mathrm{cos}\left(\theta+\alpha)\right\}\right/2 \tag{A.1.3} \end{align}}

式(A.1.2)と式(A.1.3)を式(A.1.1)に代入して整理すると以下の式が得られる。

{\displaystyle p=MR{\left\{s+\left(\frac{V_{swe}\mathrm{cos}\alpha}{2T_h}+\frac{V_{swc}}{2T_k}\right)\mathrm{cos}\theta-\left( \frac{V_{swe}}{2T_h}\mathrm{sin}\alpha \right) \mathrm{sin} \theta \right\}}^{-1} \tag{A.1.4}}

ここでsは以下の式である。

{\displaystyle s=\left\{\frac{V_{swc}}{2T_k}+\frac{V_{clc}}{T_k}+\frac{V_k}{T_k}+\frac{V_{r}\mathrm{ln}\left( \frac{T_h}{T_k}\right) }{T_h-T_k}+\frac{V_h}{T_h}+\frac{V_{swe}}{2T_h}+\frac{V_{cle}}{T_h}\right\} }

図A.1.2を参照して、以下の三角法による置換えを考えると、

{\displaystyle\begin{align} c\,\mathrm{sin}\beta =\frac{V_{swe} \mathrm{sin} \alpha}{2T_h}\tag{A.1.5}\\ c\,\mathrm{cos}\beta =\frac{V_{swe} \mathrm{cos} \alpha}{2T_h} +\frac{V_{swc}}{2T_h}\tag{A.1.6} \end{align}}

ここでβは、

{\displaystyle \beta=\mathrm{tan}^{-1}\left( \frac{V_{swe}\mathrm{sin} \alpha /T_h}{V_{swe}\mathrm{cos} \alpha /T_h+V_{swc}/T_k}\right) \tag{A.1.7}}

また、cは、

{\displaystyle c=\frac{1}{2}{\left\{ {\left( \frac{V_{swe}}{T_h}\right) }^{2}+2\frac{V_{swe}}{T_h}\frac{V_{swc}}{T_k}\mathrm{cos} \alpha +{\left( \frac{V_{swc}}{T_k}\right) }^{2}\right\} }^{\frac{1}{2}} \tag{A.1.8}}

である。

式(A.1.5)と(A.1.6)を式(1.1.4)に代入して整理すると以下の式が得られる。

{\displaystyle p=\frac{MR}{s\left(1+b\,\mathrm{cos}\phi\right)} \tag{A.1.9} }

ここで、

{\displaystyle \phi=\theta+\beta } {\displaystyle b=c/s }

である。

式(A.1.9)は'caloric lineの方程式'で、Schmidtによって得られたものと同じ形である。圧力の最大値と最小値はcosφの極値から簡単に求められる。

{\displaystyle p_{max}=\frac{MR}{s\left(1-b\right)} \tag{A.1.10} } {\displaystyle p_{min}=\frac{MR}{s\left(1+b\right)} \tag{A.1.11} }

サイクル中の平均圧力は以下の式で与えられる。

{\displaystyle\begin{align} p_{mean}=\frac{1}{2\pi }\int_{0}^{2\pi }pd\phi\\ =\frac{MR}{2\pi s}\int_{0}^{2\pi}\frac{1}{1+b\,\mathrm{cos}\left( \phi\right) }d\phi\tag{A.1.12} \end{align}}

積分表(Dwight 1961)から式(A.1.12)は以下の式に整理される。

{\displaystyle p_{mean}=MR/(s\sqrt{1-b^2}) \tag{A.1.13} }

式(A.1.13)は、作動ガスの全質量と、比較的簡単に定められた平均作動ガス圧力を関連付ける、最も手頃な手法であり、この目的の下、この本を通じて用いられる。

作動空間VcとVeの容積変化の効果により、エンジンにより外部に仕事がなされる。エンジンによってなされる全仕事は、膨張空間及び圧縮空間にて行われた仕事の代数和となる。サイクルを完了することで以下の式が得られる。

{\displaystyle\begin{align} W_c=\oint p\,dV_c=\int_{0}^{2\pi}p\frac{dV_c}{d\theta}d\theta \tag{A.1.14}\\ W_e=\oint p\,dV_e=\int_{0}^{2\pi}p\frac{dV_e}{d\theta}d\theta \tag{A.1.15}\\ W=W_e+W_c \tag{A.1.16} \end{align}}

微分方程式(A.1.2)と(A.1.3)より、容積の導関数は以下のようになる。

{\displaystyle\begin{align} \frac{d\,V_c}{d\theta}= -\frac{1}{2}V_{swc}\mathrm{sin} \theta \tag{A.1.17}\\ \frac{d\,V_e}{d\theta}= -\frac{1}{2}V_{swe}\mathrm{sin}\left( \theta+\alpha\right) \tag{A.1.18} \end{align}}

式(A.1.17)(A.1.18)及び(A.1.9)を式(A.1.14)(A.1.15)に代入すると以下の式が得られる。

{\displaystyle\begin{align} W_c=-\frac{V_{swc}MR}{2s}\int_{0}^{2\pi }\frac{\mathrm{sin} \theta }{1+b\,\mathrm{cos}\left( \beta+\theta\right) }d\theta \tag{A.1.19}\\ W_e=-\frac{V_{swe}MR}{2s}\int_{0}^{2\pi }\frac{\mathrm{sin}\left( \theta+\alpha\right) }{1+b\,\mathrm{cos}\left( \beta+\theta\right) }d\theta \tag{A.1.20} \end{align}}

以下の式(A.1.19)と(A.1.20)の積分の解を求める方法はSchmidtによるものとは幾分異なる。しかしながら、筆者はより理解しやすいものと考えている。

まず、圧力の式におけるフーリエ級数展開を検討する。この展開における一つの項だけが0でない積分を返すということが解る。この積分を行うことによって厳密解が得られる。

式(A.1.21)に示されるp(φ)のフーリエ級数展開は以下のようになる

{\displaystyle p\left( \phi\right) =p_0+\sum_{i=1}^{\infty }\left\{p_{ci}\mathrm{cos}\left( i\phi\right) +p_{si}\mathrm{sin}\left(i\phi\right)\right\} \tag{A.1.21} }

ここで、

{\displaystyle\begin{align} p_{0}=\frac{1}{2\pi }\int_{0}^{2\pi }p\left( \phi\right) d\phi\\ p_{ci}=\frac{1}{\pi }\int_{0}^{2\pi }p\left( \phi\right) \mathrm{cos}\left( i\phi\right) d\phi\\ p_{si}=\frac{1}{\pi }\int_{0}^{2\pi }p\left( \phi\right) \mathrm{sin}\left( i\phi\right) d\phi \end{align}}

ここで、bの一般的な値における式(A.1.9)のグラフを参照すると、p(φ)は変数φの偶関数であること気づき、従ってコサインの項のみによって表現できる。これより式(A.1.21)は以下のように省略でき、

{\displaystyle p\left( \phi\right) =p_0+\sum_{i=1}^{\infty }p_{ci}\mathrm{cos}\left( i\phi\right) \tag{A.1.22} }

式(A.1.22)と(A.1.17)を(A.1.14)に代入して以下の式が得られる。

{\displaystyle W_c= -\frac{{V}_{swc}}{2} \int_{0}^{2\pi }\left(p_0+\sum_{i=1}^{\infty }p_{ci}\mathrm{cos}\left(i\phi\right) \right)\mathrm{sin}\theta d\theta \tag{A.1.23} }

式(A.1.23)を展開して、

{\displaystyle W_c= -\frac{{V}_{swc}p_0}{2} \int_{0}^{2\pi }\mathrm{sin} \theta d\theta -\frac{V_{swc}}{2} \sum_{i=2}^{\infty }{p}_{ci}\int_{0}^{2\pi } \mathrm{cos}\left\{i \left( \theta+\beta\right)\right\}\mathrm{sin} \theta d\theta -\frac{V_{swc}{p}_{c1}}{2} \int_{0}^{2\pi }\mathrm{cos}\left( \theta+\beta\right) \mathrm{sin} \theta d\theta \tag{A.1.24} }

式(A.1.24)の右辺の最初の2項が0であることは簡単にわかり、結果として以下の式となる。

{\displaystyle W_c= -\frac{V_{swc}{p}_{c1}}{2} \int_{0}^{2\pi }\mathrm{cos}\left( \theta+\beta\right) \mathrm{sin} \theta d\theta \tag{A.1.25} }

式(A.1.25)の積分を実行すると、

{\displaystyle W_c=\frac{1}{2}\pi V_{swc}p_{c1} \mathrm{sin}\beta \tag{A.1.26} }

膨張空間に対しても同様に

{\displaystyle W_e=\frac{1}{2}\pi V_{swe} p_{c1}\mathrm{sin}\beta \tag{A.1.27} }

ここで、式(A.1.21)と(A.1.9)より、

{\displaystyle p_{c1}=\frac{MR}{\pi s}\int_{0}^{2\pi }\frac{\mathrm{cos}\, \phi }{\left(1+b\,\mathrm{cos} \phi\right) }d\phi \tag{A.1.28} }

式(A.1.28)は積分表を用いて2段階で求めることができ、以下のようになる(Dwight 1961):

{\displaystyle \begin{align} p_{c1}=\frac{MR}{\pi s}\left( \frac{2\pi }{b}-\frac{1}{b}\int_{0}^{2\pi }\frac{1}{1+b\,\mathrm{cos}\, \phi }d\phi\right)\\ =\frac{MR}{\pi s}\left( \frac{2\pi }{b}-\frac{2\pi }{b\sqrt{1-b^2}}\right)\\ =\frac{2MR}{sb}\left( 1-\frac{1}{\sqrt{1-b^2}}\right) \end{align} \tag{A.1.29} }

式(A.1.29)と(A.1.13)を(A.1.26)(A.1.27)に代入して最終的に以下の式が得られる。

{\displaystyle \begin{align} W_c=\pi V_{swc}p_{mean}\mathrm{sin} \beta \left( \sqrt{1-{b}^{2}}-1\right) /b \tag{A.1.30}\\ W_e=\pi V_{swe}p_{mean}\mathrm{sin}\left( \beta-\alpha\right) \left( \sqrt{1-{b}^{2}}-1\right)/ b \tag{A.1.31} \end{align} }

式(A.1.30)と(A.1.31)はSchmidtによって得られたものと基本的に同じ結果であり、解析の主要な解析結果を構成する。

ここで、Schmidt解析は理想等温解析を基礎においていることから、熱効率はカルノー効率に収束する。熱効率はエンジンの行った仕事と外部から供給された熱量との比で定義される。2章で外部からの熱の供給は膨張空間で行われた仕事と等しいことが示されている。(式(2.12)と(2.13))従って、

{\displaystyle \eta=W/W_e=\left(W_c+W_e\right)/W_e \tag{A.1.32} }

式(A.1.30) と(A.1.31)を(A.1.32)に代入して、

{\displaystyle \eta=1+\frac{V_{swc}\,\mathrm{sin} \beta }{V_{swe}\,\mathrm{sin}\left( \beta-\alpha\right) } \tag{A.1.33} }

式(A.1.33)を展開して整理すると、

{\displaystyle \eta=1-\frac{{V}_{swc}}{{V}_{swe}}\left(\frac{\mathrm{tan} \beta }{\mathrm{sin} \alpha -\mathrm{tan} \beta \mathrm{cos}\alpha }\right) \tag{A.1.34}}

式(A.1.7)を(A.1.34)に代入して整理すると、以下の式が得られ、これはカルノー効率を示すものである。

{\displaystyle \eta=1-T_k/T_h \tag{A.1.35} }