伊佐沼ライドと川越電気鉄道

昨年末に事故った自転車を何とか直し、様子見に50kmほどのライドをすることにした。目的地として選んだのは川越の伊佐沼。伊佐沼と言えば打木村治の小説「大地の園」における川中生のマラソンや軍事教練の目的地として頻繁に登場するスポットだ。ここが自宅から約20数km、往復すれば約50kmとなる。丁度良い感じだ。

「大地の園」の時代は今から100年程前で、その頃は伊佐沼のすぐ脇を鉄道(いわゆるチンチン電車)が走っていた。このチンチン電車(川越電気鉄道)は川越の東電支社から大宮駅ロータリーを繋いでおり、「大地の園」の主人公、河北保が寺泊の姉、喜美子の家に旅に出たときに、信越線の駅のある大宮へと向かうために乗り込んだ電車である。

現在、道の形などに当時の面影が残っているが、遺構といえるものはほぼ残されていない。唯一残されているのが小さな用水にかかった橋台*1で、これが伊佐沼からほど近い場所にある。走るついでにこれを実際に見に行くことにした。

荒サイに秋ヶ瀬橋からinして右岸側で上流へ向かう。修理した自転車は特に問題ないようだ。病み上がりでもあるのでそれ程飛ばさず25km/h程度で走り、上江橋から一般道へ入り少し行ったところにそれはあった。

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このごみ集積所の下の古びたレンガ積みがそれである。

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用水の脇にひっそりと、100年以上の時を過ごすうちに角も落ちてそれでもしっかりとその存在を保っている。そうと知らなければ誰もが気付かず見過ごされてしまうであろう歴史の遺構である。

とはいえ単なるレンガ積みの物であるのでそんなに長いこと見るべきものもないので先へ進むこととする。今や普通の車道となった古き軌道の後を走り伊佐沼へ。

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非常に天気も良く景色も清々しい。

伊佐沼には九十九川という小川が流れ込んでおり、この脇の小道を進むと国道16号に達する。この16号にかかる橋が二枚橋であるのだが、大正時代の橋が現存している。

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「大地の園」における描写では、この橋のたもとに天婦羅屋があり、軍事教練の行軍の折にここで小牧中佐が生徒たちに天婦羅を奢ったのであるが、今その面影を示すものはない。

さらに進み、川越喜多院の北側、現在の東京電力川越支社のある付近に鉄道の始発駅、川越久保町駅があった。現在東京電力のある場所には当時火力発電所があり、この電力が鉄道に用いられていた。

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ここから100年程前に保少年は寺泊まで旅立っていったのだ。

寺泊と言えば、現在の寺泊駅は保少年がたどり着いた寺泊駅ではない。当時の寺泊駅は今はなき越後交通長岡線*2の終着駅で、現在の寺泊港付近、海沿いに在った。現在の寺泊駅はその当時は大河津駅と呼ばれ、まさに喜美子が前畑豊平を伴って保を迎えに来たその駅である。

*1:この辺の詳細はこれらのページに詳しい

*2:当時の駅の様子などはこのページなどが詳しい